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魚に喰いが立たず釣れぬ場合、大抵の釣人たちは自分を含め大抵細ハリスを使用する事になる。ところが鶴岡のお年寄りや年配を召したベテランの釣師たちは2.5〜3.0号と云う太ハリスを、年間を通して使っている。時にはハリスを使わずに3.0〜3.5号の道糸に直接鉤をくくりつける事さえある。結び目から切れることがあるから出来るだけ、結び目を多用しないと云う合理的な考え方でもある。その昔釣り糸やハリスが弱かった時代に経験上使われていた事が現在に生きているのである。これは釣れた以上は必ず上げたいと云うのが本音だからであるからだそうだ。それで太いハリスで魚がまったく釣れないかと云えば、結構上げているから不思議である。その為細ハリスを使う人が脇に来て、釣をされるのを極端に嫌う。何故かと云うと細ハリス使用の下手な人が来ると釣り上げた魚をバラス確率が非常に高く、撒餌でせっかく集めた魚が散ってしまうので一緒に釣られては困るのだと云う。
水が澄んできれいな時に、同時に釣ったのでは細ハリスに食いつくチャンスが格段に多いのは当たり前である。ところがそんな時でも撒餌に集まった魚の場合は、必ずしもハリスを気に留める様子もなく釣れて来る事がある。重い錘を付けて真下にドンと落とすのではなく、潮に乗せて餌を落とし込んでやると云う釣の技法(完全フカセ)が、太ハリスでも餌に喰い付かせる事が可能なのだ。ところが同じ技法を持っていた場合、どうなのだろう。その時は細ハリスの人に多く釣れるやも知れぬ。いや釣れて当たり前だと感がある。ところが実際には鶴岡の釣り人数人で釣行する場合は、あらかじめ今日は何号のハリスを使うと最初から打ち合わせをしているからそんな事にはならないのである。何故かと云うと以下ではなく、大物が来そうだと予感のする時はそれ以上の太ハリスを使うことはあっても、それ以下の細ハリスを使うことは絶対にないからである。
遠くから釣れているのを見て他の釣り人が強引に割り込んで来る。その上細ハリスを使われてバラされるアクシデントに見舞われる事が多々ある。その為せっかく寄せた魚が、それが原因でまったく釣れなくなると云う状態となる。だから釣のマナーとして釣れている場所に割り込んでまで釣ることは止めようと云う暗黙の了解があった。他に釣り場がなくどうしても割り込む時は、事前に先客の了解を得てから割り込むのが常識と云うものである。
ところで以前に物の本で読んだ事があるが、魚の目と云う物は0.1〜0.5の近視なのだそうだ。2号ハリスで約10cmの至近距離で黒鯛はハリスを見破ることが可能であると云う。しかし黒鯛が住む岸近くの海ではいつも濁りを伴っていることが多いから実際にはそれ以下であろう。どちらにとしも10cmと云う至近距離にならないと、それが安全に食する事が出来る餌なのかどうかの判別がつかないのだ。魚には目が悪い代わりに匂いを判別出来る鋭い嗅覚と云う器官が備わっており、遠くからでもその匂いで餌かどうかの判別が出来る。それと警戒心がある。その性質を応用したのが、撒餌であろう。庄内磯で釣をするベテランの多くの釣師達は、20〜30分は釣をせずにせっせと撒餌をした後、おもむろに竿に仕掛けをセットする。ポイントに魚を十分に寄せて、魚が安心させ餌を食わせてから釣ろうという算段である。いくら極度の近眼であっても近くに寄ればハリスだって見えるだろうし、警戒もする。ところが時間がたつに従い警戒心が薄れて、上から落ちて来た餌を食べることに集中する。
ところでハリスには錘や鈎がついている。その事によって起こる不自然な動きを、うまく潮に乗せて如何に自然な動きにさせるかという演出が必要となる。これが釣れる、釣れないのかの分かれ道であると考えられる。固定ウキより誘導ウキが良く釣れると云う事がある。これなどは道糸の張り方を変えて餌を上下に振って自然な餌の落下を演出させることが出来るからだと考えられる。下で上から餌が落ちてくる状態を魚が見た時に点で見させる事が可能であった時に魚は安心して餌に飛びついてくる。海水が濁った日を別にして、横からの餌の動きだけではいくら魚が近眼とは云え、ハリスや錘の視認が出来るので警戒心を呼び起こし釣れ難いと云う事になる。
結果的に云える事は上手な釣り人は、太ハリスを気にしない。餌の自然落下を演出が出来れば、どんな人にでも釣れるチャンスがある。自分の釣り方は細ハリスで魚と一対一の勝負のスリルを味わう釣である。上手な釣師の太ハリスを使う釣り方とは一線を画す釣である。細はリスの釣りは安易に魚が釣れ易い反面、ハリスが細い為に切れやすいことがある。その為にハエの改造中通しの竿(5.4〜6.3m)の極端な柔らかい竿を使っている。中通し用にチューブラの一番細いトップに交換してしまうと道糸は最大1.0〜1.2号しか通らない。二番目が細いので合わせると竿の長さも30〜40cm程短くなる。
そもそも太ハリスで釣る釣り方は、如何にして魚に餌を食わせるかと云う釣であり釣の原点でもある。フカセでそんな釣り方で釣りが出来る方は、自分には中々出来ぬ釣りのスタイルであるから尊敬に値する。自分に釣り方のスタイルは細はリスで安易に食わせてハリスが切れるかどうかをハラハラ、ドキドキしながら引きを楽しんで釣る釣りであり、太ハリスの釣りは如何にして魚に餌を食わせるか、その技術を楽しむと云う釣である。どちらのスタイルも釣には変りはない。用は自分の好き好きでスタイルを選べば良いと考えている。
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